「嗅覚」や「味覚」の異常は新型コロナ感染者の多くにみられる症状 [薬学博士からのアドバイス] | 薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

脳科学的栄養学No.99

◇「嗅覚」や「味覚」の異常は新型コロナ感染者の多くにみられる症状

一般的な風邪をひいたときに、匂いが分かりにくくなったり、食べ物の味がいつもと違って感じられたりしたことはありませんか。

これは風邪の原因となるライノウイルスやコロナウイルスの感染が、嗅覚や味覚に異常を生じさせることが知られています。

同じような症状が、新型コロナウイルス感染症の患者にも見られるという報告が、急速に増えています。

日本でも3月27日にプロ野球選手が匂いを感じなくなったことをきっかけに医療機関を受診し、PCR検査につながったことが報道されました。

そのあとも数名の選手が同じような味覚の異常があったことを明らかにしました。

新型コロナウイルス感染症と嗅覚異常や味覚異常の関係を最初に公表したのは、ドイツBonn大学のウイルス学のHendrik Streeck教授です。

教授は、エイズのHIV（ヒト免疫不全ウイルス）の専門家として著名ですが、現在は新型コロナウイルスの研究に取り組んでいます。
 

教授がこれまでに面談を行ってきた100名以上の比較的軽症の新型コロナウイルス感染症患者との面談を通して、患者のおおよそ3分の2は、数日間にわたって嗅覚と味覚が消失した状態にあったと述べています。

シャンプーの匂いが分からなかったり、子どものオムツが汚れていることを感知できなかったり、食べ物の味が分からなくなったりした、とのことです。

教授は、2020年3月16日のドイツの新聞のインタビュー（＊1）において、嗅覚や味覚異常の患者がいたことを明らかにし、そうした異常は感染後、少し時間がたってから現れるのではないかと語っています。

Streeck教授の報告をきっかけに、新型コロナウイルス感染症患者の嗅覚と味覚の異常に注目が集まり、韓国でも3191人の新型コロナウイルス感染症患者のうち、488人（15.3％）に嗅覚または味覚の消失を経験した患者がたことを発表しています（＊２）。

また、こうした状況を受けて、英国の耳鼻咽喉科医会（ENT UK）は3月21日に、嗅覚や味覚の異常は、自己隔離を指示するためのツールとして利用できる可能性がある。

ほかに新型コロナウイルス感染症を示唆する症状が見られない成人に、7日間の自己隔離を行うよう依頼すれば、周囲に感染を広げるリスクを低減できるかもしれないとの見解を公表しています（＊3）。

さらに、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会（AAO-HNS）も3月22日に、アレルギー性鼻炎や、急性または慢性の鼻副鼻腔炎などの患者ではない人に、これら3症状のいずれかが見られた場合には、新型コロナウイルスに感染している可能性を考え、自己隔離を指示し、検査を実施することを検討すべきだと発表しました（＊4）。

このように、欧米を中心に嗅覚消失や味覚異常を新型コロナウイルス感染の兆候として注視する動きが進む中、世界保健機関（WHO）は、 3月23日の時点では、WHOは新型コロナウイルス感染症と嗅覚消失の関係を示すエビデンスは確認していないとの慎重なコメントを出しています（＊5）。

したがって、現時点では、嗅覚消失はWHOの新型コロナウイルス感染症の症状リストには加えられていません。

　感染を発表した3人の野球選手は、「ワインとコーヒーの匂いを感じない」、あるいは「味噌汁の味がしない」と訴えたそうです。

今後、より多くの患者の情報を分析する必要はありますが、こうした症状は比較的若い、軽症または他に症状がない新型コロナウイルス感染者に現れやすい可能性があります。

　いずれにしても、現段階では嗅覚や味覚の異常があるだけでは、新型コロナウイルスのPCR検査の対象にはなりませんので、万が一嗅覚や味覚の異常を感じても、あわてて医療機関を受診するのではなく、周囲に感染させることのないよう自己隔離を試みて様子を見ることが賢明なようです。

＊1　ドイツFrankfurter Allgemeine新聞（2020年3月16日）

＊2　About 15 pct of COVID-19 patients lose sense of smell or taste: data. Yonhap news agency. March 25, 2020.
＊3　Loss of sense of smell as marker of COVID-19 infection. ENT-UK. March 21,2020.
＊4　AAO-HNS: Anosmia, Hyposmia, and Dysgeusia Symptoms of Coronavirus Disease. March 22, 2020.