話ながら歩くのが苦手な高齢者は「認知症予備軍」? [薬学博士からのアドバイス] | 薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

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薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

2020.07.23

話ながら歩くのが苦手な高齢者は「認知症予備軍」? [薬学博士からのアドバイス]



科学的栄養学No.115

◇話ながら歩くのが苦手な高齢者は「認知症予備軍」?

 

「運動が認知症予防になる」とか「認知症予防にはをウォーキングキングがいい」などという話をよく聞きます。
 

では、実際に歩行機能と認知機能との関係についてどこまで明らかにされているのだろうか?

 

老化に伴い歩行機能は確実に衰えていきます。

 

いくつかの研究から、歩行速度が遅い人は認知症発症リスクが高い傾向にあり、逆に認知機能が低下している人は歩行速度が低下しやすい傾向にあると指摘されています。

 

つまり「歩行速度」と「認知機能」は双方向に関係しているいうことで、歩行速度の観察が認知症発症リスクの早期発見につながるのではないかとも考えられたこともあります。

 

しかし、そもそも高齢者がゆっくり歩くのは、エネルギー効率の点からいえば、「理にかなっている」ともいえるのです。

高齢者は筋力が衰えるなど体全体が老化により変化してくるので、若い人に比べるたら歩幅が狭くなり、関節の状態も変化します。

 

ですから、その変化した体の状態に適応した状態で歩いたほうが、エネルギー代謝の面で効率がよいのです。

高齢者が無理に若者のスピードに合わせて歩くと、多くのパワーを使わないといけなくなり体にかける負担は大きくなるからです。

 

実際に高齢者は、老化に応じてゆっくりと歩いているだけなのに、その速度だけで認知機能の低下と関連づけるのは無理があるのではないだろうか。

また歩行速度が遅くても認知機能はしっかりしている人は多くいます、逆に、歩行速度は問題なくても認知機能に衰えが見られる人もいるかもしれません。

 

最近は歩行のスピードだけでは見つけることができない「隠認知症予備群」を見つける方法として、「二重課題条件下での歩行速度」が注目されています。これは、何か頭を使うような認知的な活動を行いながら歩く時の速度を見るというやり方です。

 

昨今問題になっているスマートフォン(スマホ)の「ながら歩き」もその一つ。
 

「スマホのながら歩き」は老若男女問わず推奨できない行為だが、「会話をしながら歩く」「計算をしながら歩く」といったことも「ながら歩き」の一種であり、こうしたことは高齢者にとってはちょっと難しい課題といわれています。

 

 歩行中に話しかけられた高齢者の中で、「話すために止まってしまった人」と「歩きながら答えた人」を6カ月間追跡し、その期間に転倒した人の割合を調べた研究(*1)があります。

 

それによれば、「止まってしまった人」は、その8割ぐらいが6カ月の間に転んだ。

一方「歩きながら答えた人」のほとんどは、6カ月の間に転倒しなかったとのこと。

*1 Lundin-Olsson, et al.Lancet. 1997;349(9052):617. 

 

  つまり、「何かをしながら歩く」というのは、他方にも注意を振り分けることで、それができる能力は、歩行する場合にはきわめて重要で、安全な歩行のためには必須の能力と考えられます。

 

 最近、こうした「二重課題」の処理能力が認知機能とも関係しているのではないかと言われています。 

 

普段、普通に歩いている分には何の問題もないのに、話しかけるなど、何か認知的なストレスをかけると歩く速度が真っ先に落ちてくる人ほど、認知機能が衰えている傾向が見られるのです。

 

さらに、こうした「二重課題」の成績が悪い人ほど将来認知症になる可能性が高いことが、2017年、カナダのマニュエル・モンテロ-オダッソ教授らの研究チームによる100人余りの軽度認知障害の高齢者を6年間追い続けた研究によって明らかになっています(*2)。
 

*2 Montero-Odasso, et al.JAMA Neurol. 2017 Jul 1;74(7):857-865.

 

この研究で歩きながらやってもらった課題は、

・100から1ずつ引いていく

・「100から7ずつ引いていく

・動物の名前を言えるだけ多く言うの3つ。

 

普通に歩いた場合の速度と、課題をやりながら歩いた場合の速度を測り、後者の場合どれだけスピードが落ちるかを指標にする。

6年間の研究の結果分かったことは、「二重課題」の成績が悪い人、つまり、
計算や動物の名前挙げをしながら歩くと歩行スピードが落ちやすい人ほど、そうでない人に比べて2.4倍から3.8倍、認知症発症のリスクが高くなるということだった。

 

では、なぜ「二重課題」時の歩行速度が認知症発症に関連するのだろうか?

 

磁気共鳴画像装置(MRI)を使って調べた研究があります(*3)。

*3 Sakurai, et al.J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018

 

二重課題を行う際に中心的な役割を果たしていると考えられている「前頭前野」、そして認知症の影響を強く受け早期に萎縮する「海馬」「海馬傍回」「嗅内野(きゅうないや)」の大きさの変化を調べています。

 

 その結果、「嗅内野」が萎縮して小さくなった人ほど、「二重課題」時の歩行速度が遅いことが分かりました(図参照)。

 

 認知症では「嗅内野」の萎縮が早期から起こり、記憶の働きが衰えるといわれている。

この、早期の認知症で衰えてくる脳の部位と、「二重課題」時の歩行速度が関連するということはつまり、「二重課題」時の歩行速度が遅いかどうかで、認知症発症リスクがある程度予測できるかもしれない、ということです。

 

ただ、毎日の生活の中に、この『二重課題』を取り入れるのは、やってみる価値があるかもしれませんね。

 

例えば、友人とおしゃべりをしながら歩いたり、2本のポールを使いながら歩くノルディックウオーキングを行ってみたり。

あるいは、一方で食材をゆでたりしながら他方で食材を切ったり洗ったりする「料理」を習慣化するなど、二重課題を生活の中に取り入れて継続的に行えば、その能力が維持され、認知症の発症を抑制することにつながる可能性がありますね。
 

 

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