あのねのねさん 006 [私の出産] | 第3回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第3回ぐるっとママ懸賞作文

あのねのねさん 006 [私の出産]

沃野の棲家
ママの荒野に色を撃ち込んでくれる愛しいこどもたちへ


私の人生は荒野に建つ荒屋のようだった。
13歳、母が病気になってからは嵐のような日々に目が回った。一家の手を繋ぎ合わせていた母が脳腫瘍と診断され、余命を宣告されたその日から。父は一気に押し寄せた現実たちに耐えられなかった。母が病に倒れて2年。15歳。父は酒に逃げ、姉は家出した。私は、目の見えなくなった母と2人きりになった。病魔は母をじんわりと飲み込んでいった。入院がちになりついには退院してこなくなった。痩せ細り、口も聞けなくなり、真っ暗な世界で終わりを待つ母に、縋って死なないでほしいと泣いて手を握り続けた。けれど4年後の冬、母は死んだ。私はひとりぼっちになった。色を無くした日々は無味だった。何もできず、立ち上がれないままに所在を無くし、家族の影が残る家から逃げるように外を歩き回った。逃げた先の、外に漂うご飯の香りが、灯油の匂いが、家族の談笑が、私が失ったたくさんの色が胸をギュッと締め付けた。
冬が嫌いだった、春が苦しかった、夏が寂しかった、秋が息をさせてくれなかった。そんな日々を過去にしたのは、箱に仕舞わせて思い出にさせてくれたのは、あなたたちが生まれてくれたから。
葛藤はたくさんあった。検診に行くたびに口から不安がこぼれ落ちそうだった。胎動を感じるたびに疑問を投げかけた。
でも生まれてきたあなたを見て思った。私が産みたかった。私が会いたかった。私があなたを大好きで愛しくて一緒に生きてほしいんだって。
小さい手で足で、身体で一生懸命泣くあなたを守らせてほしいって。
それから私の荒野には、草木が花が芽吹き咲いて、たくさんのクレヨンで彩り色んな色の葉で描かれた。抱っこでしか眠らずに私を困らせ泣かせた長男は、お弁当に入れたチューリップの形をしたソーセージに「おはな、ごめんね」と声をかけて食べた。キャラ弁は嬉しかったけど可哀想で食べたくなかったと卒園後に知った。母の心子知らずというけれど子の心も同様に母は知らないのだ。長男とは正反対に、電気を消しさえすれば寝たお調子者のよく笑うおしゃべりな次男は、1年生になった途端にトップクラスのトラブルメーカーになり私を悩ませている。6年生になる頃何を語るのか少し楽しみだ。私の頭は痛いが側から聞けば笑いの尽きないこともたくさんしでかしてくる。そんなあなたたちが、2人が大きくなるたびに、私の人生は味のある美味しい人生になっていく。いつの間にか、町を流れる匂いたちがさわりと胸を撫で付けても痛くなくなっていた。ふと振り返って手を伸ばしたくなった。あなたたちとの毎日が優しくて優しくて涙がでるのよ、ママ。
立ち行かないこともある、怒りも悲しみも苦しみもたくさんある。けれど、でも、同じくらいの幸せがある。私はあなたたちを愛している、生まれてきてくれたことに、私を母にしてくれたことに、無償の笑顔を向けてくれることに、感謝している。私の元に生まれてきてくれてありがとう、幸せにしてくれてありがとう。手を繋いで寒いねとくっつきあう日々が、虫や花を追いかける日々が、一緒になってはしゃぐ日々が、ただいまとおかえりが飛び交い戻ってくる毎日が嬉しい。
守らせてほしいと思ったけれど、私はあなたたちに毎日守られている。
来年、長男は小学校を卒業して中学生になる。次男は2分の1成人式だ。健やかに。だいすき。
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